無医村に花は微笑む

三浦友和 伊藤蘭 寺田農 相島一之 江藤潤 鷲尾真知子 石丸謙二郎

昭和56年も暮れのこと。千葉県がんセンター婦人科医長の将基面誠(三浦友和)は、ある決意を妻の春代(伊藤蘭)に打ち明けていた。夫の様子から春代はそれがただならぬことと察したが、誠の話は案の定、夫婦のみならず3人の息子を含めた家族5人のこれからの人生を大きく変えるものだった。「無医村である岩手県田野畑村に行って働きたい」。誠は、先ごろ盛岡の学会から足をのばし、すでに田野畑村を訪れて、村長の早野(寺田農)や診療所事務長の中嶋(相島一之)と会って来たという。春代は、医師として常にその役割と使命に自問自答を繰り返してきた夫の真意が、いつかそのような形となって告げられることを予感していた。だが、今の生活をすぐに変え新しい場所へ行くことは、簡単には決意できなかった。その後、夫と共に田野畑村を訪れてみても容易には決心がつかない。しかし、年が明けたある日のこと、春代は誠に代わってがんセンターへの辞表を書くと言う。両親と兄も医師という環境で育った春代は、誰よりも医師としての誠の気持ちを理解し、受け入れてくれたのだ。
 こうして一家は田野畑村へ移り住むことになった。だが…その直後、思いもよらぬことが起こった。春代が突然倒れたのだ。診察にあたった誠の友人の内藤(石丸謙二郎)は、それが白血病の前段階の症状で平均生存期間7年、木更津に留まって治療に専念するべきだと誠に話した。春代の兄で医師の石井啓一(江藤潤)も妹の病状を心配しかけつけてきた。この時誠は、田野畑行きを断念、早野村長にもそれと伝えた。しかし、それを覆し田野畑へ行く決定を変えないと言い出したのは、他ならぬ春代自身だった。「パパの夢はそんなちっぽけなものだったの? パパの夢を家族全員で実現させるの」。

 それからしばらくして、将基面一家の田野畑村での生活と誠の診療所での仕事が始まった。
 春代は、初めて田野畑に来た時、あまりに花がない村であることを寂しく思った。だから、引越しの挨拶代わりに苗木数十本を配った。この村を花でいっぱいにしたい! そんな春代なりの夢を託して。
 だが、最初こそ医師の着任を喜んで診療所に押しかけた村人たちも、次第に誠のもとを訪れなくなってきた。村人たちにとって、治療とは薬であり注射。ここに来れば何らかの治療を施してくれると考えている村人たちは、まず病気にならない環境を作ること、医師に頼らない精神を作るようにすることから始めようとしていた誠の考えにはなじむことができなかったのだ。しだいに村人たちとの間に溝ができ、ついに診療所に来る者はいなくなってしまった。そして、いじめに合うようになった息子。お手伝いに入っている地元の主婦・シヲ(鷲尾真知子)もこの状況を案じていた。とその時、春代が立ちあがった。「私がいじめた相手の家に行ってきます」。もしも誠が出ていけば、診療がやりづらくなる。そう考えて春代は自ら出かけて行ったのだ。
 その後も、春代は村人たちとの間に積極的に入っていくようになった。そしてそのことがやがて誠のいる診療所への信頼回復に繋がっていった。だがその一方で、春代の病状は確実に進行していた。「あと…3年…」。内藤から過酷な宣告をされる誠…。

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